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本日は三つ編みデー

ベルタリウスの誕生日にファンティアにアップしていたものです。今更で申し訳ないです……ネタバレは特にありません。

――それは、クリアと過ごし始めて二度目の秋を迎えた頃の話。

「ただいま~」
「にぃ~っ!」
玄関先で声を投げると、しゅたたたっとクリアが現れ、飛びついてきた。それを受け止め、抱っこしてやる。
「にぃ~♪ にぃにぃ♪ べるさん、おかえりなさいなのです……♪」
そして、甘えた声と頬擦り。なんだかもう、脳がバターみたいに溶けそう。
(あぁ~心がにぃにぃするんじゃ~……)
ここは天国か。いずれは地獄に行く身の上だと自覚しているので、生前に天国を堪能しておくのも良いかもしれぬ。
「ん? あれ、お前髪どしたの」
よく見ると、クリアは一本結びの髪を三つ編みにしていた。
「いおねえに『してもらった』のですよ。『やりかた』をおそわったので、べるさんも『あした』するのです」
「えっ、俺?」
「……だめなのですか?」
「いや、ダメじゃあないけど……お前と違って可愛くも何ともない成人男性だし……」
「…………ですか」
しょぼん、とクリアが俯き始め、俺は大いに慌てた。
「あっ、いや……分かった分かった。一本結びなら、三つ編みにしていいぞ」
「ほんとうですか? 『おそろい』ですね……♪」
クリアの瞳の中にぱぁっとお星さまが散らばる。こんなに嬉しそうにしているなら、うん、まぁ、いいかな。
――そして、翌日。
「にぃっ。できたのです。『こんしんのでき』なのですよ……♪」
上機嫌のクリアに手鏡を渡され、覗いてみる。うーむ、自分じゃよく分からん。
「これで仕事に行くのかぁ……」
「みんな、きっと『ほめてくれる』のですよ!」
「そうかなぁ……」
「『おそろい』うれしいのです……♪」
「あーうん、そうだよね、俺とのお揃い嬉しいんだよね、ハァ~土地とか別荘買ってやりてぇ~~ッ!」
「めっ」
「あ~怒られた~もうホント無欲で困るわ~お財布ガッバガバなのにィ~」
「べるさん、そろそろ『おしごと』にいく『じかん』なのですよ」
「あぁ、まずいまずい。教えてくれてあんがとな。じゃ、行ってくる」
「はい、『くるまにきをつける』のですよ?」
「はぁーい」
まるでお母さんのようなことを言われつつ、外に出る。
今日は心なしか、道行く他人の視線が気になった。
「たいちょー、それー、珍しいっすねー」
間延びした口調が特徴の、獣耳がピッと立った兎族の少年が呟く。こいつは髪の色が金色というより黄色に近いので、「キイロ」と呼ばれている。
そんな風にのーんびりと呟きつつ、奴は俺の首を本気で狙ってきた。物騒だが、個人的には割合好ましい部下である。
「はー、まーた殺せなかったやー」
「キイロ。お前の心意気は買うが、まだまだ甘い。もっと気配を殺せ」
「はいはーい。ちぇー。今日は何やらキャワイイ髪型してるから、その状態で殺せたら生首も素敵だっただろうになー」
「隊長、キャワイイな……はい、猫……」
「俺の頭に猫を乗せるな」
背の高い、岩の化身のように屈強そうな男が俺の頭に猫を乗せてくる。青髪のこいつの名前は、そのまんま「ネコヒロイ」である。もしかしたら本名と呼べるものがあるのかも知れないが、皆「ネコヒロイ」と呼んでいる。由来は安直に、「いつも猫を拾っているから」である。
「また猫を拾ったんか。毎回里親を探すのも大変だろうに。まぁお前の生きがいに口を出す気はないんだが、仕事はちゃんとしろよ」
「おう……分かり済み……」
猫が肩に移動して、三つ編みを発見したらしくぺしんぺしんと叩いて遊び始めた。
それを引き剥がして、ネコヒロイにパスする。
「もっと遊ばせてあげたらいいのに……猫、似合うぞ……?」
「俺は猫苦手なんだよ」
と、いうよりも罪悪感がある。昔、投薬実験なんかに良く使ってしまったから。
「おっハロ~☆ みんなのアイドル・ロッテよ~ん! あらーん隊長! 今日はいつにも増してキュートだわぁ~素敵ぃ~♪」
そして、また面倒くさい赤髪のケツアゴ部下がやって来る。こいつは所謂オネエという奴で、本名はモリナガなのだが勝手にロッテと名乗っている。
――これで、信号機トリオが勢揃いした。
このように、地下都市復興組織≪REBUILD≫の幹部も大半がクレイジーである。皆実力はあるのだが、中身は俺を含めてただの変態どもだ。
「なになに~? イメチェ~ン? もしかしてこのロッテちゅわんへのアピールかしら~? やぁだもォ~、キャンワイイだからぁ~♪」
と、ロッテが無遠慮にも人差し指で頬をプニプニプニプニしてくる。その逞しい指を振り払い、俺は咳払いをした。
「俺の髪型の話はもういいンだよ。さっさと仕事すんぞ」
「ういーっすー」
「うい……」
「うぃっ☆」
そして、今日もハチャメチャな一日が始まった。
「あら、ベルタリウス……その髪型は珍しいですね。クリアがやってくれたんですか?」
そして、仕事帰りにオネエチャンことアルフィーネに会いにレイチェリカ教団本部に行ったわけだが、一瞬で悟られた。
「そうだよ、名探偵アルファチャン。イオに習ったらしくてな、自分も今日三つ編みにするからお揃いが良いんだと」
「どんどん可愛くなりますねぇ、クリアは」
「分かるゥ~? もうホント天使だからァ~、いや正確には元天使だけど俺の中では今でもずっと天使だからァ~、あ~~もう『めっ』されてもいいから土地とか別荘買いたァ~い!!」
「またそれですか、全くもう……それに、今日は貴方が何か貰う側でしょうに」
「えっ、なんで」
「……まさかまた忘れてるんですか。今日は貴方の誕生日ですよ。去年は私がバタバタしていてケーキも作れなかったので、せめて今年は豪華にと思って作りましたのに」
「……???」
「いや、背後を振り返っても誰もいませんから。『今日』は『貴方』の『誕生日』です。毎年ちゃんと祝ってるのにどうして翌年には忘れるんですか」
「あ~そっかァ~最近ちょくちょくママのお腹の中に里帰りしたい気持ちになってたのはそのせいか~」
「もう……茶化さないで素直に受け止めてくださいよ」
「だって、生まれてきて良かったわけないじゃんかよ。誕生日だって偽装戸籍作るのに適当に決めただけだし」
「ちょっ……、いきなり重たいこと言わないでくださいよ……」
「あぁ、すまん。今の人生に特に不満はない――どころか満喫しまくっているので、今生きていること自体を否定する気は全くない」
「……それは何よりです。クリアは貴方の誕生日を知らないんですか?」
「知る必要ないじゃん」
「ありますよ」
「なぜに」
「クリアにケーキを食べさせる口実が出来ます」
「おぅふ……ククク、こいつァ一本取られたぜ……それなら祝って貰わざるを得ないなァ……」
「そういう訳で……ケーキはこちらになります。クリアと一緒にどうぞ」
「有難う。は~、あいつ喜ぶかな~? 最近は好き嫌いしないし、甘いものも適度に欲しがるからな~喜ぶかな~」
「……なんだか、隋分と親らしくなりましたね」
「ん?」
「自分のことより子どものことを優先させていますから。当たり前と言えばそうですが、親って自分はともかく子どもの喜ぶ顔が見たいんですよね」
「そうなんだよなぁ……もはや基準が『クリアが喜ぶかどうか』なんだよなぁ……」
「ふふ、なんだか微笑ましい気持ちになっちゃいました。今日はもう早く帰って、クリアと一緒にケーキを食べると良いですよ」
「あぁ、そうする。悪いな、何から何まで」
「……そんなことはないですよ。誕生日おめでとう、ベルタリウス」
何だかそんな風に言われると、非常に心がむず痒くなった。
「ぅに。『けーき』なのです?」
帰宅後、クリアにケーキの箱を渡すと早速興味を示し始めた。
「そう。アルフィーネが作ってくれたんだ。なんか今日、俺誕生日らしいからさ」
「にっ!? な、なんにも『ようい』してないのですよ……! な、なにか、なにか……したいのですよ、したいのに……」
「気にすんなって」
クリアがあわあわ慌て始めたので、優しく頭を撫でて宥めた。
「一緒にケーキ食べてくれたら、それで良いよ。そんで、笑ってくれたらもっと嬉しいかも。今朝、三つ編みもして貰ったしな」
「……ほんとに、それでいいのですか?」
「当たり前だよ。十分過ぎるくらいだ」
「ですか……あの、べるさん」
「うん?」
「おたんじょうび、『おめでとうございます』なのです」
「……うん。あんがと」
本当に、俺には過ぎた幸福だ――こんなに幸せで怖いな、ってぐらいに。
まぁ、こんな日々も長くは続かなかったわけなんだけどさ。

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