Return to site

冬の足音、耳をふさいで

ファンティアにアップしていたものです。暗め。

※4S+のネタバレを含みますので閲覧の際はご注意ください。下げておきますので大丈夫な方のみスクロールをお願いします※

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

//

 それは二番目の秋のことだった。
 葉は紅く色づきはじめ、長袖を出して袖を通した。
 クリアは相変わらず毎日社会復帰プログラムに通っていて、俺は自分の仕事をこなす日々。
 今日は俺が休みの日で、クリアが散った紅葉の上をさくさく歩いていくさまを見送った。
 本当は不安で仕方がなかった。
 一度ならずも二度までも誘拐されて、暴行を加えられてもクリアは挫けなかった。
 目も眩むような現実と夢の狭間で葛藤しつつも、立ち止まらない姿勢に胸が痛んだ。
 ――しかし、俺に出来ることといえば黙って見守ることぐらいで、大したことは何もできないでいた。
 父さんもこんな気持ちだったんだろうか。雨の中戦ったクレスのことを、どう思っていたのだろう。
 今になって、猛烈に話がしたくなった。もう叶わないことばかり夢に見る。年を取ったせいなのか、弱くなったせいなのか、未だに分からない。
 家事をこなして買い出しに行こうかと支度していると、PDが鳴った。
「はい、アサルトです」
『あ――クリアくんのお父さんですか? 私は彼の担当指導員なのですが』
 大人の女性の声だった。少しばかり、嫌な予感がした。
「……クリア、どうかしました?」
『ええと、熱があるんです。病院内なので処置は出来ますが保険証等が必要で……』
「分かりました、今行きます」
 丁度外出の支度はしていたので、手早く荷物をまとめて飛び出した。

 病院の空きベッドにクリアは寝かされていて、見るからに顔が真っ赤な様に俺は忸怩たる気持ちになった。
 なぜ朝の時点で気がつかなかったのだろう。いつもそうだ。強がるクリアに騙されてばかりなのだ。
 ベッドの脇には女性職員がいた。俺の姿を認めると、握っていたクリアの手を解いて彼女は立ち上がった。
「突然お呼び立てしてしまってすみません。アサルトさんですね」
「……はい」
「風邪だそうです。朝はクリアくん、なんともなかったのですか?」
「……異常があったかもしれないのに、見落としてしまいました」
「あ……いえ、ご自分を責めないでください。私もクリアくんが倒れるまで気がつかなかったのです……申し訳ありません」
「……倒れたんですか」
「はい、突然……」
「そこまで頑張り過ぎなくていいと、いつも言ってはいるのですが」
「クリアくんはいつも、頑張り過ぎてしまう子なのですね。分かります。いつも一生懸命で……社会復帰プログラムを休んだこと、一度もないですから」
「……そうですね」
「今日・明日はもう休んでいた方が良いでしょう。いっぱい甘えさせてあげてくださいね」
「……はい」
 女性職員は静かに病室を出ていき、俺たち二人が残された。
 近寄って額に手を当てると、当然ながら熱い。
 クリアがうっすらと目を開けた。
「べる……さん?」
「おはよう。今日はもう帰ろう。お前はちょっと頑張り過ぎたんだ」
「でも……」
「お前は風邪をひいてるんだよ。他の人に移したら大変だろう」
「……はい」
「お薬貰って帰ろう。おんぶしてやるから」
「おんぶはやです……」
「なんで?」
「もう……おっきいから……」
「確かに成長著しいが、今日はおんぶで決定だ。寝ていていいから」
「でも……」
「無理をするなよ。悲しくなるだろ」
「……?」
「いつもそうだ。どうして俺を騙そうとする」
「だます……?」
「辛いときはちゃんと言ってくれ。言わないと、分からないことも有るんだ」
「はい……」
「ごめん、辛いのに。もう何も考えるな」
 優しく頭を撫でると、こくんと首が上下に揺れた。そしてクリアは再び夢の中へ。

 薬局で薬を貰った後は、クリアをおぶって帰路を辿った。
 立場は逆だけれど、似たようなことが昔にもあった。父さんに背負われて、病院まで行った日のことを思い出す。
「とう、さん……くるしい……」
「もう少しだよ、クレス。大丈夫だから、心配しないで」
「でも……」

「君のことは、必ず僕が守るから」

(嘘ばかり言うなよ)
 暗澹たる気分になった。最近はいつもこうだ。感情の起伏が激しい。
 家につき、クリアをベッドに寝かせた。
 今日はおかゆにすることにして、離れようとすると指にクリアの細い指が絡みついた。
「や……です……いかないで……」
「……」
「いかないで、ください……」
「……クリア」
「こわい……やだ……」
「心配するな。大丈夫だから。ただの風邪だよ。死んだりしない」
「でも……」

「大丈夫だ。俺が必ず、お前を守るから」

 言った瞬間、口から自然と零れ出た言葉に愕然とした。
「ほんとう……ですか?」
「……本当だよ」
「よかっ、た……」
 クリアの瞳が閉ざされて、指が力を失った。すやすやと寝息が聞こえる。 
 ――そうか。あんたもこういう心境だったのか、父さん。
「俺は……嘘にはしない」
 クリアの頬に触れた。
「お前を守る。約束だ」
 頼むから、この約束を守らせてくれ。どこにもいかないでくれ。
 そうでないと、俺は自分を許せなくなってしまいそうになるんだ。

 薬のおかげもあってか、クリアの熱は翌日綺麗に引いていた。
 社会復帰プログラムに参加すると主張するクリアをベッドに押し込め、すりりんごを食べさせた。
「にぃいいぃ……」
「今日は休め。いっぱい俺に甘えろ」
「にぃ……」
「それもまた、大事な仕事なんだ」
「……そうなのです?」
「そうなのです。ほら、おいで」
「……うつっちゃうのですよ」
「いいよ、移して。俺は丈夫なんだ」
「ぅにぃ……」
「はいはい、仕方ないでちゅねぇ」
 そっちから来ないのならと抱きしめた。ビックリするぐらい華奢だった。
「にぃ……♪」
 すりすり、と頬擦りをされた。まだ少し熱が灯る頬が、愛しくて仕方がなかった。
「早く元気になろうな」
「もう、げんきなのですよ」
「もっともっと、元気になれ」
「……はい」
 大人しく頷いたクリアの頭を撫でた。いつまでもこうしていられる気がした。
 けれど、冬の足音は確実に聞こえて来ていたんだ。
 頑なに耳をふさいでいたから、気づかなかっただけで。

All Posts
×

Almost done…

We just sent you an email. Please click the link in the email to confirm your subscription!

OKSubscriptions powered by Strikingly